ナノ粒子の材料特性を変えるマイクロ波合成
はじめに
ナノ材料の物性は粒子径に大きく依存します。 用途によっては、所望の特性を備えたナノ粒子を得るため、できるだけ狭く精密な粒子径分布を実現することが不可欠です。 近年では、マイクロ波支援合成法が、粒子径分布と物性を同時に高精度で制御しながら多様なナノ材料を製造できる最先端手法として確立されています。 マイクロ波照射を活用することで、短時間で各種パラメータを厳密に制御しながらナノ粒子を合成でき、必要に応じて粒子の特性やサイズも細かく調整できます。 こうして得られたナノ粒子は、医薬(ドラッグデリバリーシステム、製剤)、自動車(コーティング、フロントガラス、エネルギー貯蔵)、化粧品(日焼け止め、シャンプー、歯磨き粉)、繊維(アウトドアウェア、シューズ)、電子デバイス(プリント基板、太陽電池、LED、タッチスクリーン)など、幅広い分野で利用されています。 なかでも電子デバイス分野では、量子ドット(QD)が主要な研究対象となっています。
量子ドット
グラーツ大学(カール・フランツェンス大学)クリスチャン・ドップラー・マイクロ波化学研究所のカッペ教授率いる研究グループは、二酸化セレンと各種カドミウム錯体を原料とし、発光特性を自在に設計できる単分散CdSe量子ドットの合成を検証しました。 240 °Cで5分間、Monowave 300を用いて合成を行い、粒子の球状成長と凝集を制御するためにオレイン酸の添加タイミングを最適化しました。 (凝集とは、複数の粒子が集合してより大きな構造体を形成する現象であり、分散操作によって再度分離できます。)続いて、小角X線散乱法(SAXSess mc2)で粒径分布を評価しました。
選択したカドミウム錯体とオレイン酸の添加タイミングの組み合わせにより、量子ドットの粒径を0.5~4 nmの範囲で自在に制御できました。 それに伴い発光スペクトルもシフトし、フォトルミネッセンス発光色は黄緑から橙赤まで調整可能となりました。 これにより、LED製造などの用途に合わせて発光色をカスタマイズした量子ドットを作製できます。
ドイツおよび米国の研究グループによる報告が示すように、これらの量子ドット(QD)合成プロトコルは容易にスケールアップでき、マイクロ波支援合成でも数十グラム規模まで対応可能です。 そのため、本手法は研究室レベルにとどまらず、産業界にとっても魅力的です。
2種類のマイクロ波合成装置、 Monowave 300 および Masterwave BTR (アントンパール製)は、収量をグラムスケールからキログラムスケールまで容易に拡大できます。 両装置は合成で最も重要なパラメータの一つである温度を高精度で測定できるため、プロトコルを一切変更せずにスケールアップできる点が大きな利点です。 日産量がグラム単位でもキログラム単位でも、変わるのは試料質量だけです。
マイクロ波合成の利点
マイクロ波照射により反応を短時間で完結させることで、ナノ材料の製造プロセスが大幅に簡素化されます。 マイクロ波反応装置なら、取り扱いが難しい特殊オートクレーブを長時間運転してようやく得られる高温・高圧条件を、容易かつ迅速に実現できます。 200 °Cをはるかに超える水熱合成も、わずかな時間で実施可能です。ナノ粒子のサイズや形状は、反応条件のわずかな変化によって大きく左右されます。 そのため再現性を確保するには、可能な限り高精度の温度測定と圧力制御を備えていることが、最新型マイクロ波反応装置に求められる必須条件となります。 これは、とりわけ産業用途において重要です。 さらに、最適化した反応プロトコルをスケールアップする際には、反応温度を正確に把握することが決定的なパラメーターとなります。