塗料とコーティング材の粘弾性特性は、様々な状況でのこれらの挙動に影響を与えます。
塗料及びコーティング剤の粘弾性測定
塗料及びコーティング剤の粘弾性挙動
製造時及び使用時のポンピング挙動と流動挙動
液体原料及び最終製品の塗料/コーティング剤は、製造や使用段階でパイプから送出されます。必要な装置を設計するには、様々なせん断速度における流動挙動を理解することが重要です。
静止時(長期貯蔵状態)の分離挙動と沈殿挙動
分散した塗料やフィラーが懸濁液中にとどまらないと、容器の下部に堆積物の層ができます。この結果、塗料やコーティング剤が不均質になります。
測定対象となる代表的な塗料及びコーティング剤:
ボールペンのインク
ボールペンは世界で最も使用されているペンであり、毎日数百万本が製造、販売されています。ボールペンは美しいほどにシンプルな道具です。使用時はペン先の金属ボール(ボールポイント)からインクを排出します。ただし、必要なときに正しく機能せず、インクが出なくなったり、金属ボールに不均一に溜まって紙や指がインクで汚れる場合もあります。
このような症状が出る場合は、少なくとも2、3の原因があります。このような原因としては、ボールソケットアセンブリの精度、インクのトライボロジー特性、粘弾性挙動、トライボロジー挙動などがあります。例えば、インクの粘度が低くなると、せん断または温度の変化によって、ソケットを通ってボールの先端まで流れるインクの量が増えます。ボールソケット機構の疲労も、インク流量の増大や減少の原因となる場合があります。
ボールペンのインクのトライボロジー測定
ボールペンのインクの粘弾性測定では、通常の使用条件下でのインクの流動挙動に関する重要情報が得られます。また、トライポロジー測定では、ボールソケット機構の摩擦と磨耗の挙動を調べることができます。次のグラフは、ボールペンから紙に排出されるインクの挙動をシミュレートしたもので、金属/インク/紙からなる構造系における、粘度の異なる2つのインクサンプルの挙動を示します。
金属/インク/紙からなる構造系の場合、摩擦係数は紙に対して金属が滑る速度の関数として測定されます。2つの面の間に流体膜が形成されたときに、摩擦係数は最小値になります。理想的には、筆記速度でこの状態になり、流体膜の厚みは、書いた文字が汚れないよう必要最小限の量のインクを排出できる程度に薄く、かつボールとソケットの磨耗を防止できる程度に厚くなる必要があります。
この測定には、ボールオンスリープレート構成の試験器具を装備したレオメータが必要です。
フュームドシリカ
フュームドシリカは密度が極めて小さく表面積が大きい材料であり、特に、充填剤、増粘剤、流動剤としてよく使用されます。フュームドシリカの特性は、使用する原材料や製造工程を変えることにより、最終用途に合わせて微調整できます。したがって、製品がその目的に適合しているか判断するには分析と品質管理が重要です。粉体レオロジー測定では、フュームドシリカなどの粉体の特性に関する有用な情報が得られます。例えば、凝集力からは粉体粒子間の結合力がわかり、脱気測定では空気が粉体サンプル内にとどまる時間がわかります。脱気特性は、空気圧搬送で粉体を容易に搬送することが可能か否かを示す重要な指標です。
フュームドシリカの粘弾性測定
脱気測定は、パウダーセルを装備したレオメータで行うことができます。最初に、粉体を指定時間だけ十分に流動化させ、次に空気流を停止し、パウダーセル内の圧力を極めて短い時間間隔で複数回測定します。信号が一定値に達すれば、粉体サンプルから空気が完全に抜けたと見なされます。
この測定には、粉体レオロジーに対応可能なレオメータが必要です。https://www.anton-paar.com/corp-en/products/details/powder-rheology/
粉末コーティング剤の粘弾性測定
粉末コーティング剤の硬化挙動を特定するには、振動式レオメータを使用して温度試験を行います。振動試験では、損失弾性率G''で表される粘性的挙動と貯蔵弾性率G'で表される弾性的挙動の両方を同時に測定できます。こうして、一定測定温度(等温試験)での時間依存挙動として、または特定の温度範囲内の温度依存挙動として、硬化挙動を測定できます。
この測定には、ペルチェ素子温度制御システムを装備したレオメータが必要です。
この測定は、自動車業界で通常使用される粘弾性測定の1つとなっています。
粉末コーティング剤II
粉末コーティング剤は発展中のテクノロジーです。最初はより弾性の高いコーティング剤の製造用に開発されましたが、より環境にやさしい無溶媒プロセスとして普及が進んできました。処理には、流動化や空気圧搬送など複数の工程が含まれますが、これらの工程には粉体の粘弾性が大きく影響します。このため、粘弾性測定を行うことにより、粒子の品質、及び粉体が粉末コーティング剤に適しているか否かを判断するための有用な情報が得られます。粉体は、溶融レオロジー(粘度挙動と硬化挙動)が適切でなければなりませんが、同時に、空気圧搬送するためには流動化が可能で空気保持特性が良好であることも必要です。粉体の流動性と流動化を改善する方法の1つが、少量のフュームドシリカを添加することです。
粉末コーティング剤の粘弾性測定
粉体の品質は、パウダーセルを装備したレオメータを使用して調べることができます。例えば、圧力降下を測定すると、サンプルを十分に流動化するのに必要な流量がわかります(次のグラフを参照)。空気圧搬送への粉体の適性も、パウダーセルを使用した脱気測定により調べることができます。また、様々なせん断条件下で粘度測定を行うことにより、搬送処理中に問題となり得る事項についても良好な情報が得られます。
トップコート
多くの場合、トップコートは最も外側の表面層となります。光沢のある表面に仕上げ、天候などの影響から保護するために使用されます。表面に垂れや塗布後のブラシ跡が残らないように、トップコートは適切なタイミングで構造を回復できることが必要です。回復が遅すぎても早すぎてもいけません。このため、トップコートでは構造回復の時間依存性が重要な品質要因となり、これが表面のレベリング性やタレ性に影響します。この構造回復は、チキソトロピーというレオロジー用語で表すことができます。
トップコートの粘弾性測定
レオロジーにおいて、チキソトロピー挙動とは、一定のせん断荷重をかけた試験インターバル中にサンプルの構造強度が低下し、その後の静止インターバル中に構造が完全に回復することとして定義されます。この挙動は、回転試験または振動試験で3インターバルのチキソトロピー試験を行うことによって測定できます。試験手順では、次の3つの測定インターバルで塗布処理のシミュレーションを実行します。
- 静止インターバル: 非常に低いせん断荷重を設定し、静止状態での構造を評価します。
- 荷重インターバル: 一定の高いせん断荷重をかけた状態で、塗布時の構造的分解挙動を評価します。
- 構造回復インターバル: 塗布後に時間をかけて構造が回復する様子を評価します。測定条件は、静止インターバルと同じ値に設定します。
この測定には、ペルチェ素子温度制御システムを装備したレオメータが必要です。
この測定は、自動車業界で通常使用される粘弾性測定の1つとなっています。
その他の材料及び用途
以下のトピックの詳細については、対応する各項をご覧ください。