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粒子径測定用のレーザー回析・散乱法

レーザー回折・散乱法は、粒子径解析に最も一般的に使用されている手法のひとつです。これは、粒子によって回折される (レーザー) 光の角度が、粒子の大きさに対応するという原理に基づいています。粒子径の異なる粒子が含まれる複雑なサンプルでは、光回折により特定の回折パターンが得られます。このようなパターンを解析することで、サンプルの正確な粒子径比率 (すなわち粒子径分布) を推定することができます。

はじめに

回折 (英語の diffraction はラテン語の diffringere (バラバラにするの意) に由来) とは、波が障害物やスリットにぶつかって曲がる現象のことです。音や水の波などの機械波だけでなく、光の波などの電磁波も回折されます。

光の回折を用いて、光の波がぶつかった障害物の大きさを求める解析手法があります。この解析手法は、光の回折角度が障害物の大きさに反比例するという事実に基づいています (図1)。実際の解析では、光源にレーザーを使用することが多いため、一般にレーザー回折・散乱法と呼ばれています。レーザー回折・散乱法が機能するには、障害物がある程度小さい (レーザーの波長の 1000 倍程度まで) 必要があります。このような小さな障害物を一般に粒子と呼びます。粉体の粒やエマルションの液滴など、小さくて明確に分けられる物質の一部分が粒子に当たります。

図 1: レーザーがその波長に匹敵するほど小さな障害物に遭遇したときのレーザー回折の模式図小さな粒子の回折角度 (α1) は、大きな粒子の回折角度 (α2) よりも大きくなります。そのため、サンプル中の異なる粒子径から生じる複雑な回折パターンを利用して、粒子径分布 (PSD) を求めます。

粒子径測定

回折

粒子径測定用のレーザー回折実験の設定は容易です。まず、レーザービームに対して 分散粒子  を通します (図 2)。レーザービームは、粒子径に応じた角度で粒子によって回折されます (図 1)。回折角度は一定ではなく、特定の回折パターン (エアリーパターン、図 3) を形成し、これも粒子径に依存します (図 4)。次に、測定データと理論から計算される値を比較する複雑なアルゴリズムを用いて、この回折パターンを検出・解析します (検出と解析 の章を参照)。この結果が 粒子径分布 (PSD) です。

図 2: 粒子径解析装置におけるレーザー回折赤い矢印のレーザー光がサンプル (青い矢印) に入射・回折しています。同心円は簡略化した回折パターンを表します。

図 3: レーザー回折パターン: 一番内側の円をエアリーディスクと呼びます。外側の同心円と一緒に、いわゆるエアリーパターン (回折パターン) を形成します。

図 4: 2 つの球形粒子の回折パターンのシミュレーション粒子 1 は粒子 2 の 2 倍の大きさです。上の図は、断面を通る回折光の半径方向の強度をプロットしたものです (赤い矢印で示す)。式に示すように、エアリーディスクの大きさは、波長 (λ) に正比例しますが、粒子径 (d) には反比例します。つまり、粒子が大きいほどエアリーディスクが小さくなり、より "密集した" 回折パターンになります。

分散

鮮明な回折像を得るには、サンプルを適切に分散させる必要があります。各粒子が、分散媒または空気中を移動しながら、レーザーの前では単一の粒子として見える必要があるということです。通常、サンプルはその用途に適した状態で分析する必要があります。つまり、最終製品が分散液の場合は湿式で、最終製品が粉体の場合は乾式で測定する必要があります。

湿式測定では、粒子が分散媒中に分散し、レーザーの前に設置されたガラス製の測定セルに送り込まれます。測定が終了するまで、サンプルは循環し続けます。湿式分散ユニットには通常、速度を調整できるロッドスターラーと、照射時間と出力を調整できる超音波照射装置が搭載されています。

乾式測定では、粉体が圧縮空気または重力によって分散し、レーザービームの前でドライフローを形成します。サンプルは、粒子同士や乾式分散ユニットの壁面に衝突することで、解膠 (より小さな粒子径の粒子に分解) します。 

検出と解析

これまでに示した回折パターンは、完全に球形の粒子が単一の粒子径で集まっているという理想的なケースを表していました(図 2, 図 3, 図 4)。しかし、実際のサンプルでは、粒子径や形状の異なる複数の粒子が混在しています。その結果、各粒子は特定の回折パターンを示しますが、それらがすべて重ね合わされることで、識別可能なパターンではなく、不規則な曲線となってしまいます (図 5)。この章では、レーザー回折・散乱方式の粒子径分布測定装置が、検出光をサンプルに含まれる粒子径の 情報  に変換する方法を説明します。

図5: 回折・散乱強度曲線: 異なる粒子径を含むサンプルの回折パターンを重ね書きしたもの (左図) と、回折パターンの総和、すなわち実際に検出される強度 (右図)。

実測データの取得

図 6 に、実際の粒子径分布測定装置の検出器を示しています。この形状により、環状の回折パターン (図 3 ) を扇形として検出することができます。各受光部は、特定の回折パターンに応じて、異なる強度の光を受け取ります。扇形検出器でさらに広角領域を検出するには、通常、個別検出器を追加で設置します。

図 6: レーザー回折・散乱装置の一般的な検出器の例扇形の中央には、回折していないレーザー光を通す小さな穴が開いています (右の拡大写真参照)。黒いブロックは、さまざまな角度の回折光の強度を検出する受光部です。

データ解析

装置で強度曲線が記録された後に (図 5)、強度曲線を構成する個々の回折パターンを識別します。一般的な原理を示す行列を図 7 に示します。このアルゴリズムでは、測定データと各粒子径区間の理論計算値を比較することで、全体積中の 粒子径区間 の比率、すなわち粒子径分布 (PSD) を推定します。

図 7: 実測強度データから粒子径分布 (PSD) を算出する原理を示す行列実測強度 (I) データはオレンジ色の括弧内に示され、各検出器での測定ごと、つまり α1 から αn までの各角度での測定ごとに分けられています。式の青色部分は理論部、すなわち各粒子径区間 (c1 ~ cm) と各検出角度 (α1 ~ αn) の計算による強度を表しています。計算強度と実測強度を比較することで、PSDを算出することができます。その結果を赤色の括弧内に示しています。ここで、N は全体積に占める各粒子径区間 (c1 ~ cm) の相対的な比率を表しています。

各粒子径に対して理論的に想定される強度値は、 図 8 に 3D グラフで示しています。このグラフから、ナノ領域の非常に小さな粒子では、回折パターンがほぼ見られないことが分かります。このような粒子にはおそらく、動的光散乱法など、他の粒子径測定手法が適しています。

図 8: さまざまな粒子径および回折角度における光の計算強度

回折・散乱データ解析理論

レーザー回折・散乱法の実測データの解析には、Fraunhofer理論とMie理論の 2 つが用いられます (図 9)。どちらも球形粒子を仮定しています。Fraunhofer理論は、光の吸収、屈折、反射、散乱などの現象を考慮していないため、より単純な理論となっています。この理論は、大きな粒子や不透明な粒子に対して有効であり、粒子の光学特性に関する知見は必要ありません。一方、Mie理論は、光散乱現象も考慮するため、使用するレーザーの波長における粒子の屈折率と吸光係数の値が必要になります。一般原則として、粒子の光学特性の値が不正確な可能性がある場合には、Mie理論を使用するよりもFraunhofer理論を使用する方が望ましいと言えます。

図 9: Fraunhofer回折理論 (左図) とMie散乱理論 (右図) の違い大きくて不透明な粒子は、通常、Fraunhofer回折理論を用いて解析されます。Mie理論では、回折以外の光学現象も考慮します。

粒子径分布

レーザー回折・散乱法では、特定の粒子径区間に属する粒子の比率を推定することができます。粒子径区間は粒子径が近い粒子の群で、各粒子径区間には 2 つの異なる直径が割り当てられています (図 10)。 

図10: 粒子径区間と 2 つの直径による定義方法

レーザー回折・散乱測定の一般的な結果を図 11 に示します。一般的な粒子径分布には、1 つまたは複数の粒子径区間のピークがあり、ピークは区間中で最も頻度が高い粒子径を示しています。Dmode 値は、最も高いピークの位置を示します。ただし、ピークが複数存在したり、ピークがはっきり決められない (例: スパイク状のピーク、平坦なピーク) 場合があるため、ピーク値はやや信頼性が劣ります。このため、通常は累積分布を解析します。累積分布を得るために、前の粒子径区間の値をすべて次の粒子径区間に足し合わせます。これは、最小の直径から最大の直径に向かって (ふるい下曲線)、またはその逆方向で (ふるい上曲線) 実行します。いずれの方向であっても、累積曲線は常に 0 %~100 % の範囲にあり、中間点の D50 は、レーザー回折・散乱法による粒子径測定の結果として最も広く使用されています。D50 は、粒子の 50 % がその直径よりも小さく、残りの 50 % がその直径よりも大きい粒子径を示します。分布の始点と終点は、一般的には D10 と D90 で定義しますが、他のD値を使用して累積分布を定義することも可能です (例: D1 や D99)。

図 11: レーザー回折・散乱法による粒子径測定の一般的な結果赤い曲線が一般的な粒子径分布で、Dmode 値がピークの位置を示しています。累積曲線 ("ふるい下"、ターコイズ色) の中間点は D50 で、これはレーザー回折・散乱法による粒子径測定の結果として最も広く使用されるものです。

レーザー回折・散乱法の場合、サンプル中の粒子径の比率は通常、体積で示されます (体積基準の分布)。あるいは、粒子径の比率を、表面積基準あるいは個数基準の分布で表すこともあります。レーザー回折・散乱法で使用する 理論  は球形粒子を想定しているため、表面積基準や個数基準の結果は、体積基準の結果に幾何学的な計算 (球の表面積と体積) を適用することで換算により求めます。

結論

粒子径は一般的な品質管理パラメーターであり、製造工程と製品の最終特性の両方に影響を与えます。レーザー回折・散乱法は、サブミクロンからミリメートル領域の粒子径を測定できる有益な手法です。この手法の人気が高まっているのは、再現性が高く、サンプル量が少なくて済むことに加え、測定が迅速で簡単であるためです。レーザー回折・散乱法は、粒子の光学的挙動を利用して粒子径を算出する相対的な分析手法です。この分析理論では、測定粒子は球形であるという前提に立って、その直径を算出します。非球形粒子の場合、これが実際の粒子径からずれていることは明らかです。しかし、粒子形状に起因する誤差には一貫性があるため、レーザー回折・散乱法は信頼性の高い品質管理手法となっています。

参考文献

  1. Xu, R. (2002). Particle Characterization: Light Scattering Methods. Dordrecht: Springer Netherlands, 111-181
  2. Merkus, H. (2009). Particle Size Measurements. Dordrecht: Springer Netherlands, 259-285
  3. Bohren, C. and Huffman, D. (2007). Absorption and Scattering of Light by Small Particles.Weinheim: Wiley-VCH Verlag GmbH & Co. KGaA, 381-428
  4. ISO 13320:2009, Particle size analysis - Laser diffraction methods