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粒子径解析手法: 動的光散乱法とレーザー回折・散乱法の比較

サンプルの粒子径を測定する手法としては、動的光散乱法とレーザー回折・散乱法の 2 つが確立されています。使用する粒子径解析手法を選択する際には、想定される粒子径範囲、サンプルの種類 (液体か固体か)、利用可能なサンプル量、化学的安定性、応用分野を考慮する必要があります。しかし、各手法の背景にある物理的原理も重要であり、最適な手法の選択は必ずしも単純ではありません。
この記事では、動的光散乱法とレーザー回折・散乱法の主な違いを説明し、データの解釈と比較の方法についても紹介します。

粒子径測定手法: レーザー回折・散乱法と動的光散乱法の比較

項目 動的光散乱法 (DLS) レーザー回折・散乱法 (LD)
仮定
粒子が球形である
解析可能な粒子径範囲 0.3 nm~10 µm 40 nm~2500 µm
測定に使用する理論
  • 粒子の拡散速度は、粒子径の関数となる。
  • 分散した粒子が拡散することで、散乱強度が揺らぐため、これを測定して粒子径と粒子径分布に変換する (Stokes-Einstein式)。
- 回折/散乱強度と角度の関係 (回折パターン) は、粒子径の関数となる。
- 最終的な粒子径分布は、レーザービームの方向に沿ってランダムに配向した粒子によって生じる回折パターンの総和から得られる。
等価直径*

流体力学的直径(HDD):

Stokes-Einstein式で定義される、同一条件の同一流体中で分析対象の粒子と同じ並進拡散係数 D を持つ球の直径



ここで、kB はボルツマン定数、T は絶対温度、η は溶媒の粘度、D は並進拡散係数

レーザー回折等価直径:
分析対象の粒子と同じ回折パターンを断面上に持つ球の直径(1)
0.1 µm以下の粒子の場合、この定義は体積等価直径に拡張することができます。
その場合、体積の等しい球と断面積がほぼ同じになります(2)
生データが持つ重み付け基準 散乱強度基準
  • 散乱強度の揺らぎ
体積基準
  • 粒子の寄与率は一定密度の質量に相当する体積と相関
平均粒子径結果 単分散サンプル:

流体力学的平均直径 (HDD)
多分散サンプル: 粒子径分布のピーク解析
  • D[4,3]、平均体積直径
(De Brouckere平均直径)
粒子径分布のパラメーター
  • ISO規格により定義された多分散指数 (PDI)
  • ピーク解析 (曲線下面積、標準偏差)
  • D値 (例: D10、D50、D90)
  • D値 (例: D10、D50、D90)
その他の重み付け基準 粒子の屈折率が既知の場合は、散乱強度基準の分布を個数基準および体積基準の分布に換算することができる。 体積基準の分布を表面積および個数基準の分布に換算することができる。この場合、粒子の屈折率は意味を持たない。
ISO規格 ISO 22412 ISO 13320

 

*IUPACの定義によると、非球形粒子の等価直径は、分析対象の非球形粒子と同一の特性 (例: 空気力学的、流体力学的、光学的、電気的特性) を示す球形粒子の直径に等しいとされています。 

結果とデータの解釈

DLSの結果とレーザー回折・散乱法の結果を比較することは可能か?比較すべきパラメーターはどれか?
DLSとレーザー回折・散乱法では、それぞれ異なる等価直径と重み付け基準に基づいた結果が得られます。

そのため、多くのサンプルではDLSとレーザー回折・散乱法で測定した結果を直接比較することはできず、結果の間に 10 % 以上の誤差が生じることが予想されます。この誤差を小さくするには、同じ重み付け基準で比較する必要があります。動的光散乱法を使用する場合、D値だけでなく体積基準分布に換算することもできます。

ただし、どのような換算においても、球形粒子を仮定することによる誤差に加えて、他にも誤差が発生します。そのため、換算結果よりも生データから得られる結果の方が常に信頼性は高くなります。

DLSとレーザー回折・散乱法の結果の違いを理解する

結果の違いや比較の不正確さを理解するには、次の点が重要です。

  • 手法間で直接比較するには、DLS の測定結果を換算して、体積基準分布を得る必要があります。
  • 平均粒子径は、異なる重み付けに基づいています。D[4,3] は体積、HDDは散乱強度を基準としています。
  • より正確な "平均粒子径" を得るには、メディアン径 (D50) を考慮する必要があります。

動的光散乱法 (DLS) の結果

DLSでは、流体力学的直径 (HDD) とピーク径が得られます (図 1, 2 を参照)。

Figure 1: Exemplary correlation function of a DLS measurement. From there the HDD and the polydispersity index (PDI) are calculated.

Figure 1: Exemplary correlation function of a DLS measurement. From there the HDD and the polydispersity index (PDI) are calculated.

HDDはレーザー回折・散乱法では測定できませんが、ピーク径の中央値は追加計算で求めることができます。そのため、妥当な比較を行うためには、粒子径分布を散乱強度基準から体積基準に換算し、体積基準のD値を算出する必要があります。

粒子の屈折率を使用することで、散乱強度基準の結果を体積基準に換算することができます。

Figure 2: Particle size and size distribution of polystyrene latex measured by DLS: (a) correlation function and hydrodynamic diameter (HDD); (b) and (c) particle size distribution and peak size in the intensity- and volume-based distribution, respectively

Figure 2: Particle size and size distribution of polystyrene latex measured by DLS: (a) correlation function and hydrodynamic diameter (HDD); (b) and (c) particle size distribution and peak size in the intensity- and volume-based distribution, respectively

レーザー回折・散乱法 (LD) の結果

レーザー回折・散乱法の結果として得られるD値は、ピーク径に関する情報ではなく、全体の粒子径分布を表しています (図3を参照)。分析対象サンプルの粒子径を決定するには、メディアン径または平均径 (例: D [4,3]) を考慮する必要があります。

Figure 3: Particle size distribution of polystyrene latex measured by LD (volume-based)

Figure 3: Particle size distribution of polystyrene latex measured by LD (volume-based)

DLSとLDの結果の比較

散乱強度基準のHDD (DLS: 0.13 µm) と体積基準の D50 (LD: 0.14 µm) の間には一定の類似性 (差が 10 %未満) があるものの、これら2つは異なる意味を持ち (D50 は平均径ではなくメディアン径)、異なる重み付け基準に基づいているため、正確な比較はできません。

このため、DLSの結果を体積基準分布に換算してD値を求め、レーザー回折・散乱法の結果との比較に使用することができます (表1を参照)。体積基準のD値の比較を以下に示します。その差は 20 % を超えています。

装置 D10 [µm] D50 [µm] D90 [µm]
LD 0.06 0.15 0.34
DLS 0.08 0.10 0.14

 

表1: ポリスチレンラテックスにおけるDLSとLDから算出した体積基準のD値の比較

2 つの異なる手法から得られた結果の違いは、一見すると混乱を招く可能性があり、どちらの手法を選択するべきかを決めるのはさらに難しいことです。このような場合には、サンプルの種類を考慮することが有効です。

 

 

用途ごとにどの手法を使用するか?

以下の点を考慮に入れる必要があります。

 

条件 DLS LD
サンプルの種類 分散液 (液体/液体、粉体/液体) 分散液、乾燥粉体
測定可能なサンプル量 液体サンプル: µL~mL、乾燥サンプル: mg~g 液体サンプル: mL、乾燥サンプル: g
サンプルの回収 常時可能
温度制御 常時可能、通常は 0 °C~90 °C 適切なオプションを使用することでさまざまな温度で測定可能
品質パラメーター
  • 繰返し測定の相対標準偏差が低いこと (例: 5 % 未満)
  • 検出信号 (散乱強度軌跡)
  • 自己相関関数の切片値とベースライン、ピーク解析
  • 繰返し測定のD値の相対標準偏差が低いこと (例: 5 % 未満)
  • フィッティング誤差
  • 検出信号
測定手順 最適化は不要 新規サンプルでは最適化が必要
高濃度液体サンプルの測定 70 % (m/v) 以下の原液サンプルは測定できる可能性あり。それ以上はキュベット充填前に希釈が必要。 サンプルは液体分散ユニットで直接希釈される。スターラー、超音波、循環により、装置内の粒子濃度 (減衰率) を調整できます。
粒子径下限値 サブナノメートル領域の一次粒子 (通常 0.3 nm以上) ナノメートル領域 (<100 nm) の小さな粒子からの微弱信号に対する感度が低く、精度にも限界がある。
測定時間 どちらも非常に高速 (数分)。場合によっては、レーザー回折・散乱法の方がDLSよりも速いことがある。
不純物の検出 非常に低濃度の小さな汚染物質は、レーザー回折・散乱法よりも動的光散乱法の方が容易に観測できる。
分散安定性 レーザー回折・散乱法は、大きな粒子 (> 10 µm) を含むサンプルの分析に適している。散乱強度信号が強く、分析結果は粒子の体積と相関する。超音波、撹拌、循環による分散により、粒子の懸濁状態を維持する。DLSで見られる沈降のリスクが少ない。
統計値 結果の真度と精度 (RSD) を考慮する必要がある (例: RSD < 5 %)。
代表的なアプリケーション
  • 研究及び品質管理:
  • バイオサイエンス (例: タンパク質、抗体)
  • 医薬品 (例: リポソーム、エマルション)、ナノ粒子 (例: 金ナノ粒子)
  • 品質管理:
  • 建築資材 (例: セメント、コンクリート、砂)
  • 石油化学 (例: 掘削液)、医療用粉末(例: API、賦形剤)

結論

レーザー回折・散乱法 と動的光散乱法は、研究分野と産業分野の両方で十分に確立されている粒子径測定法です。ある物質の粒子分析にどの手法を用いるかを決めるには、測定の目的 (例: 一次粒子を測定するか凝集体を測定するか)、利用可能なサンプル量、サンプル調製の難易度、測定時間、想定される不純物の性質など、多くの要素を考慮する必要があります。レーザー回折・散乱法とDLSの測定結果は互いに比較できますが、この比較には大きな誤差が含まれることを前提とする必要があります。したがって、比較は同じ手法を用いて測定した結果で行うのがベストです。

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参考文献

1. Gregorová, W., Pabst, E. (2007). Characterization of particles and particle systems. old.vscht.cz/sil/keramika/Characterization_of_particles/CPPS%20_English%20version_.pdf. [Online].
2. Jonasz, M. Nonsphericity of suspended marine particles and its influence on light scattering. s.l. : Limnol. Oceanogr. 32:1059–1065, 1987.